1-4 調(調性・key)とは何か

音楽理論を勉強していて、この「調」ってやつで挫折したり音楽を嫌いになった人も多いのでは。そんなみんな大好き「調(調性・key)」のお話です。

調のお話の前に「嬰ハ」とか「CM(シーメジャー)」、「シをHにしてシ♭をBにしちゃうドイツ語」とか聞いてもピンと来ない方は1-1 ドレミとハニホとCDE(ツェー)を先に読んでいただくと理解しやすいかと思います。

主音と属音・下属音

調の説明の前にまずこちらの図だけ覚えておいてください。

ハ長調 長音階

上の図はハ長調長音階(ドレミファソラシ)の図です。ハ長調の場合、ドの音が基準になるわけですが、この基準となる音を主音(トニック)といい、主音から順に番号(音度)を振っています。日本語だと「第1音、第2音」といった言い方をしますが、西洋音楽ではなぜかローマ数字で表すことが多いようです。

そうそう、中学生の時に国語のテストで「次の問にアラビア数字で答えなさい。」って問題が出て、「アラビア数字…?」と思いつつこのローマ数字で回答したのは苦い思い出です。

そして主音の他に第4音を下属音(サブドミナント)、第5音を導音(ドミナント)、第7音を導音(リーディングノート)と言います。他の音にも名前がありますがあまり出てこないのでとりあえずこの4つの名前だけ覚えておけば良いと思います。それだけ曲を作るのに重要な音になります。
トニックやサブドミナント、ドミナントはギターをしている方はコードの説明でよく出てくるのでご存知かと思いますが、正確にはトニックコードやドミナントコードというのを略してトニックやドミナントと言っているのだと思います。
この主音と第5音は完全5度音程、主音と第4音は完全4度音程というのは、ハ長調に限らずニ長調やヘ長調、イ短調やハ短調など短調も含めて全ての調性において共通の音程です。

調(key・調合)一覧

では、下記の調(key・調合)一覧図をご覧ください。

「いきなり何だ」と思われるかもしれませんがとりあえず「長調と短調を合わせて30個くらいあるんだなー」でOKです。

そもそも「調って何だ?」という話ですが、Wikipediaにはこう書いてあります。

メロディーや和音が、中心音(tonal centre)と関連付けられつつ構成されているとき、その音楽は調性(tonality)があるという。伝統的な西洋音楽において、調性のある音組織を調と呼ぶ。

Wikipedia

いつも思いますがWikipediaの解説の解説が欲しいです。
私なりに調というものは「音楽にしやすい相性の良い7つの音セット」と解釈しています。
音楽というのはなんでもかんでもランダムに音を並べているわけではなく、相性の良い音を横に並べていったり、(メロディー)縦に並べていったり(和音)していきます。その相性の良い音同士をグループにまとめたものが「調」というのが私なりの解釈です。

鍵盤を見るとわかりやすいと思いますが、1オクターヴの中には12の音があります。

ド・ド#(レ♭)・レ・レ#(ミ♭)・ミ・ファ・ファ#(ソ♭)・ソ・ソ#(ラ♭)・ラ・ラ#(シ♭)・シ

で12。(つまり十二平均律)その12音の中から相性の良い7つの音をセット(必ず7つ)にしたものが「調」。
その組み合わせ方が30通りあります。
楽譜を見ると、調一覧図の調号(#とか♭のかたまり)が最初に書いてあると思うのですが、それが「このセット(調)の曲ですよー」という宣言ですね。

これが音楽を理解する上でとても重要だと思うのですが、1オクターヴ12個のうちの7つをチョイスしている。
我々は小学生の時、「ドレミファソラシ」というものを何気なく使っていましたが、これもきっちり7つのセットになっています。理屈はわかっていなくてもハ長調を自然に使っています。
もしこれが「ドド#レレ#ミファファ#ソソ#ララ#シ」の12個だった場合、歌を歌うにしても音をとるのは大変なのではないでしょうか。「ドレミファソラシ」と歌えても、「ドド#レレ#ミファファ#ソソ#ララ#シ」と歌うのは難しいと思います。つまり音楽にするのが難しい。
音を7つに絞ることで自然に美しい音楽が生まれる。そういうことなのではないでしょうか。

と言いながら、実際ハ長調の曲にも#や♭は出てきます。ここに引っ掛かりを覚えるんじゃないでしょうか。私は大いに引っ掛かります。ですが最近これについては「あーちょっと寄り道したのね」とか、「あー#の音を重ねてみたのね」という風に理解するようにしています。「いろいろあったけどその根底にはハ調性がいるのね」と考えると、曲が物語や人生のようにも思えてきます。#や♭の出てこない順風満帆な人生ではおもしろくないですからね。

長調と短調と主音

調(7つの音の組み合わせ)は30通りあるといいましたが、音の組み合わせ方には法則があります。まず主役(基準)となる音(主音)を決め、残りの6つの音の並び方を2通りのパターンから選びます。この2通りの並び方のパターンが「長音階」と「短音階」です。

長調(長音階)の法則

長調は主音から順に、

全、全、半、全、全、全、半

という並びになっています。

丁半博打をやっているわけではありません。これが長音階です。

「全」と「半」は「全音」と「半音」のことで音程(音の高さの距離感)を表しています。詳しくは1-3 音程の表し方と特徴をご覧ください。

最も馴染みがあり、わかりやすいのがハ長調だと思います。ハ長調はハ音(ド)を主音とし、そこから 「全全半全全全半 」という音程で並べていくと、「ドレミファソラシド」になります。
つまりハ長調は「ハ音(ド)を主音とする長音階」という意味です。

半音と全音による音程

ハ長調 長音階

ハ長調 長音階

では「レ(ニ・D)を主音とした場合はどうなるでしょうか。
レを基準に 「全全半全全全半 」 と並べていくと、「レ・ミ・ファ#・ソ・ラ・シ・ド#」になると思います。
調整一覧図をご覧ください。

調性一覧(key)

ニ長調にはファとドに#がついているではありませんか!

つまり長調というのは、ある音を主音として全全半全全全半の音程で並べた音階のことで、その結果として#や♭がつくと考えるとわかりやすいのではないかと思います。

近親調(関係調)ってなに?

上の調性一覧図では長調が15個ありますが、同じ主音(C#とD♭など)のものもありますので実質は12種類の並びがあります。これを丸暗記してしまっても良いのですが、法則性や関係性を覚えておいた方が実用的だと思います。

そもそもこの 調性一覧図 は何の順に並んでいるかというと、時計回りに完全5度上(属音)をたどっていっています。つまりある調性の属音を主音にしたもので、この完全5度上の調を「属調」と言います。
逆に反時計回りには完全5度下(転回すると完全4度上とも言えるのでつまり下属音)をたどるわけですが、調性を「下属調」といいます。
こういった属調や下属調をまとめて近親調(関係調)というのですが表にまとめてみました。

属調完全5度上(完全4度下)の調[時計回り]
下属調完全5度下(完全4度上)の調[反時計回り]
同主調主音が同じ調(ハ長調とハ短調など)
平行調調合が同じ調(ハ長調とイ短調など)[同じ時間軸]

近親調はその名の通り親しく近い間柄だと思っておけばよいと思います。
ハ長調から見たホ短調は「属調の平行調」という言い方ができると思いますが、これも近親調に含めて考えることが多いようです。(近親調の範囲は結構曖昧)

さて、「なぜ完全5度上の調が近親調なんだ!?」という話なのですが、「構成音が似ている」というのが最大の特徴です。ハ長調の属調はト長調ですが、ファに#がついているかついていないかの差だけで他の構成音(ドレミソラシ)は全て同じになります。

「で、近親調が作曲の何の役に立つのよ?」という話ですが、近親調へは転調しやすいという特徴があります。なぜなら構成音が似ていたり主音が同じだったりするから。
曲は1曲の中でも調が様々に変化(転調)します。(もちろん転調しない曲もあります)調合そのものが変わる場合もありますし、調合はそのままで部分的に転調している場合もあります。普段何気なく曲を聴いているとあまりそれを意識することはないかもしれませんが、それはうまく近親調に転調しているからだと思います。
作曲していて「なんかここのつなぎに違和感があるな…」ということがあったら調の視点から眺めてみるとその原因がわかるかもしれません。調一覧図で言うと、対極にあるような調にはうまくつながらないと思います。
調を理解しておくことで意図的にうまく音をつなげ、素晴らしい曲を生み出すことができるのではないでしょうか。(私はいまいち理解できていません)

#、♭の増え方

図を見ると、ハ長調…ト長調…ニ長調…の順で#が増えていきますが#が増えていく順番は決まっています。ファ・ド・ソ・レ・ラ・ミ・シの順に#がついていきます。つまり調合に#が1個ついていたらその音は必ずファ、2個ならファとド、3個ならファとドとソ…といった具合です。ファとソに#がついてドに#がつかないとか、ラのみに#がつくなんてことはありません。これも結果そうなったと考えておけばいいと思います。疑い深い方はどの調でもいいので全全半全全全半と数えていってみてください。結果そうなると思います。

逆に12時の方向から反時計周りに♭がついていきますが、これはシ・ミ・ラ・レ・ソ・ド・ファの順で、#がついていく順番とは真逆になっています。
おもしろいですね!
だんだん調が好きになってきたのではないでしょうか!?

完全5度上や完全4度上をたどる時に、その主音がナチュラルなのか#や♭がついているのかわかりにくいと思うかもしれませんが、元になる調の属音・下属音が主音になると考えるとわかりやすいと思います。例を出してみますと、ヘ長調(♭1個)の下属音(第4音)は「シ♭」ですので下属調は変ロ長調ですね。

この属調・下属調の考え方は短調でも同じです。#♭がつかない短調はイ短調ですが、そこから主音が完全5度上がった属調はホ短調。これが#1つ。ホ短調の属調のロ短調が♯2つ。
逆に主音イから完全5度下げた(完全4度上げる方が数えやすい)下属調はニ短調で♭が1つ。ニ短調の下属調がト短調で♭が2つになります。

つまり♯♭のついていないハ長調とイ短調、この2つさえ覚えておけば他の調性はその法則性から導き出すことができます。
ただ、例えば調合が#1個の譜面を見たとして、それがト長調であるのか、ホ短調であるのかという部分はその譜面を見たり曲調を聴いたりして判別するしかありません。一般的に「長調は明るく、短調は暗い」と言われますが、同じ曲でも複数の調が複雑に入り組んでいることもあり、なかなか難しいものです。
そうなってくると何調かなんて考えなくても良い気もするのですがわかってくるとそれはそれで楽しいのではないでしょうか。

短調(短音階)の法則

後回しになってしまいましたが短調の法則です。短調の音階は主音から順に、

全、半、全、全、半、全、全

になります。最もわかりやすいのはイ短調だと思います。ラを主音とし、全、半、全、全、半、全、全の順に音を並べてみましょう。

半音と全音による音程

見事に黒鍵を避けていると思います。
調一覧図でイ短調の右隣のホ短調、これがイ短調の属調になりますが♯が1つ。逆にイ短調の下属調ニ短調は♭が1つ。
属調・下属調の関係性や#♭の増え方も考え方は長調の時と同じです。

実は3種類ある短音階

衝撃の事実です。これが短調をややこしくしている最大の要因だと思います。

先程まで説明してきた短音階、これは自然的短音階(ナチュラルマイナースケール)と呼ばれるもので、最も一般的なのがこの短音階です。
この自然的短音階の他に和声的短音階(ハーモニックマイナースケール)、旋律的短音階(メロディックマイナースケール)と呼ばれるものがあります。

はぁん?

何を分けのわからないことを…
と思いますよね。なぜ短音階には3つもあるのかというと、短音階は不完全なやつだと思っておきましょう。出来の悪い子なんです。3人で一人前なんです。許してやってください。私はそうやって納得しました。
順に見ていきましょう。

自然的短音階は先程説明した通り、

全、半、全、全、半、全、全

これです。これに対して和声的短音階は

全、半、全、全、半、全音半、半

になります。つまり自然的短音階の第7音を半音上げたものが和声的短音階になります。イ短調で見てみましょう。

イ短調(a-minor)自然的短音階と和声的短音階

これがイ短調の自然的短音階と和声的短音階です。第7音ソを半音上げているので第6音と第7音の音程が増2度(全音半)になり、第7音から第1音(主音)の音程は短2度(半音)になっています。音階を音にしてみるとこんな感じです。

イ短調 自然的短音階

イ短調 和声的短音階

なぜ和声的短音階が必要なのでしょうか?
一般的に曲は、主音で終わると終止感(曲が終わった感)が得られると言われています。ハ長調だったらド、イ短調だったらラですね。第7音から主音に音が移った時に自然的短音階では終止感が弱いので、終止感を強めるためにできたのが和声的短音階です。
なんのこっちゃ。
終止感はコードで聴いた方がよりわかりやすいのですが、ま、それは後回しにして終止感を意識しつつもう1度聴いてみてください。

どう?

さらに第7音と主音の部分だけを抜き出して比較してみました。

自然的短音階と和声的短音階の終止感

ま、感じ方は人それぞれなので

ということで残りの短音階、 旋律的短音階(メロディックマイナースケール) です。旋律的短音階は

全、半、全、全、全、全、半

になります。

イ短調(a-minor)和声的短音階と旋律的短音階

旋律的短音階

先程の和声的短音階は増2度というちょっと違和感のある音程がありました。それを解消したのが旋律的短音階です。第6音(ファ)にも#をつけて短2度・増2度の流れを長2度・長2度にしています。音を聴いてみるとなかなか旋律的に聴こえるのではないでしょうか。

この旋律的短音階は正確には上行形と呼ばれ、下行系は自然的短音階と同じ第6音と第7音に#がついていない音程になります。この上行形やら下行形は「フレーズが上がる時は上行形、フレーズが下がる時は下行形」といった意味合いですが、絶対的なものではないようなので、(そもそも下行形だと終止感関係ないよね?)もうここまでくるといったい何が言いたいの?優柔不断なの?好きなの嫌いなの?どっちなの?と思うわけですがまあ一応そういうことらしいです。

そしてこの旋律的短音階。よく見ると全半全全全全半の並びで、むしろ長音階に近くね?と思うわけですがなんでしょう。音楽理論って難しいですねというのか先人達よ、その理論本当にあってんのかというのか信長って本当に悪いやつだったの?みたいに疑問に思ってしまうのは私だけなのでしょうか。

あと、第7音の導音ですが、実は導音は主音より短2度(半音)下の音のことで、長2度の場合は導音とは言いません。つまり和声的短音階と旋律的短音階には導音がありますが、自然的短音階には導音がありません。

近親調の法則

属調と下属調の法則

属調と下属調については既出です。ある調から属音(第5音)・下属音(第4音)を主音にすれば導き出せます。

ハ長調の属音ソを主音にしたト長調が属調、下属音ファを主音にしたヘ長調が下属調になります。
短調も同じでイ短調の属音ミを主音にしたホ短調が属調、下属音レを主音にしたニ短調が下属調ですね。

同主調 (主音が同じ調) の法則

ある長調の第3音、第6音、第7音を半音下げると同主短調が現れます。
ハ長調の 第3音(ミ)、第6音(ラ)、第7音(シ)に♭を付けるとハ短調です。
逆に言うと、ある短調から第3音、第6音、第7音を半音上げると同主長調が現れることになります。
イ短調の第3音(ド)、第6音(ファ)、第7音(ソ)を半音上げると#3つのイ長調ですね。

平行調(調合が同じ)の法則

平行調は調合が同じ長調と短調です。別の言い方をすると構成音が同じで主音が違うとも言えると思います。
何度も登場したハ長調とイ短調は#も♭もつかない調合で、構成音は同じですが主音がドとラという違いがあります。これが平行調です。ハ長調から見たイ短調を平行短調、イ短調から見たハ長調を平行長調といった言い方もします。
ハ長調の平行短調であるイ短調の「主音ラ」はハ長調で見ると第6音にあたります。
つまり、ある長調の第6音を主音にすると平行短調が現れるということです。
1つ例を見てみますと、#3つのイ長調の第6音ファ#を主音にしたものが平行短調になりますので、嬰ヘ短調。調一覧図で見てもそうなっていますね。

逆にイ短調側から見てみると、平行長調であるハ長調の「主音ド」は第3音にあたります。
つまり、ある短調の第3音を主音にすると平行長調が現れるということになります。
例を出してみますと、ロ短調の平行長調は、第3音レを主音とする長調ですのでニ長調ですね。